辻村深月「ツナグ」
死んだ人間と生きている人間を会わせる窓口。それが使者(ツナグ)です。生きている人間から依頼を受け、死んでしまった人間から了解が得られた場合には、死者と会うことができます。死者は、生前と変わらない姿で、話すことも、触れることもできます。ただし、生きている人間も、死んでいる人間も、それができるのは一人一回だけ。生きている人間からは依頼できますが、死者側からは依頼できません。使者を探し出すのは簡単なことではありません。どんなに必死に探しても使者までたどり着けない人がいる一方で、不思議と、使者を本当に必要としている人とは出会える仕組みになっているのです。ご縁によって。
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私が一番心に響いたのは、最後の章です。
ツナグという特別な役割を、祖母から打ち明けられ、高校生の孫である歩美が引き継ぐことになります。
実は歩美は、両親がいません。幼い頃、死んでしまったのです。
ツナグという役割を引き継ぐ前に、会いたい人は居るか、と祖母に問われるのですが…。
この章では、死者に会うということが生きている人間にとってどうなのか、ということが語られています。
死者に会ったことで前に進める人もいれば、逆に後悔を抱えながら生きることになる人もいるからです。
主人公の歩美の考えは、高校生とは思えないほど、深いです。
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「失われてしまった誰かの生は、何のためにあるのか」
「死者の目線にさらされることは、本当は必要とされているのかもしれない。どこにいても何をしても、お天道様が見ていると感じ、時として人の行動を決めるのと同じ。それがもっと身近で具体的な誰かになる。あの人ならどうしただろう…と。」
この言葉が印象に残っています。
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どの章も読んでいるうちに涙が止まらなくなりました。
心温まる物語です。