寺地はるな「水を縫う」
男だけど手芸が好きな高校一年生の清澄(きよすみ)。女だけど、かわいい物が嫌いな、清澄の姉の水青(みお)。「やめとき」が口癖の母、さつ子。女だから男だからという価値観で育てられた祖母の文枝。父親だけど全く父親になれない父の全(ぜん)と、その友人であり同居者であり雇い主の黒田さん。水青の結婚を機に動き出す、この6人の家族の物語。
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ずっと読みたかった1冊。
主人公の清澄、姉の水青、母のさつ子、祖母の文枝、父親の全、父の同居人の黒田さん。
全6章からなる1冊で、1章ごとに物語の主役が変わります。6人それぞれの目線で描かれた物語ですが、それが本当に流れるようにつながっています。
主人公である清澄の家庭は、母親の実家にみんなで住んでいたものの、父親と母親が離婚し、父親が家を出ます。そして、現在父親が同居しているのが父親の友人の黒田さんです。
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読んでいて、心に突き刺さる言葉や場面がたくさん出てきました。
ここからは覚え書きです。
”みんなから浮かないために、好きじゃないものを好きなふりをする必要はない”
”伝える努力をしないくせに「わかってくれない」なんて文句言うのは違う”
”男だから女だからは関係ない”
”若いから若くないからも関係ない”
”家族って色々な形がある”
”自分の価値観で、他人のことを普通とか、失敗とか、決めつけるものじゃない”
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私は今、子育てをしている立場なので、母親さつ子の目線で描かれる、第3章「愛の泉」では、心がえぐられて号泣してしまいました。
(外で読んでいなくて良かったです。汗)
感動の涙とは違います。
心が揺さぶられて、感情があふれ出してしまったんです。
さつ子はまさに私自身のことだと思いました。
自分の子ども達には、失敗してほしくない、幸せになってほしい、だから先回りして口を出す。
物語の中で、祖母の文枝はこんな感じのことを、さつ子に問うんです。
「失敗、失敗って、あなたの人生は失敗だったの?」
「あなたの思った通りに子どもが育たなかったら、それは失敗なの?」
結局はあなたの価値観で子どもの事を測っていると…。
これは、私自身に問われたように感じました。
返す言葉が見つかりませんでした。
今の私は、私自身の価値観で子どもを測ってしまっているから。
それに、私の人生が失敗なのか正解なのか自分でもわかりません。
そもそも人生に正解なんてあるのかも。
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何度も読み返して気づいたことは、たとえ他人から見たら失敗にしか見えない人生でも、本人が幸せを感じているならば、それは正解だということ。
でも、その逆も、また、あるということ…。
なんだか本当に考えさせられる物語でした。
わが家の子ども達も小5、小3と育ってきました。
小5息子の方は、そろそろ将来のことを見据えて行かなくてはなりません。
私にとっては、まさに”今”読むべき1冊でしたね。
ちょっと運命を感じます…。
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息子は現在小5ですが、第一章は高校生の清澄の物語なので、近いうちに息子にも読んで欲しいなと思います。